視聴率なんてどうでもいい。

3月15日から二夜連続で放送されたテレビ朝日開局55周年記念ドラマスペシャル「宮本武蔵」を観た。吉川英治の原作を大雑把に省略&脚色して原作を知っている人間以外に分かりづらい作品になっており、その辺りが視聴率に影響したようだ。が、個人的にはとても面白く観た。

面白かったのは土日のゴールデンタイムにひたすら阿鼻叫喚の殺戮が延々繰り広げられ、それをやっているのがキムタクだということ。今思い返してみてもあの唐突なラストも含めて「アレは実は夢だったんじゃないか?」というような不思議な余韻すら残っている。カットを細かく割らず長めの立ち回りで普通の時代劇だったらクレームでも来そうなくらい簡単に人を斬っていく。ま、原作通りですからね。本来合間のドラマ部分で強いものに勝負を挑む動機やそこに至る過程を丁寧に見せることでその残酷さをカバーするところなんだけど、お通との恋愛要素、本位田家のお婆や又八といったコメディリリーフに時間を割きすぎて全然フォローになってないところもその特異性に拍車をかけていた。その作品としてまとまってないいびつな感じがとても良かった。感動した。

宮本武蔵」は過去何度も映像化されてきたけどその代表作としてよくあげられるのが東映内田吐夢監督、中村錦之介主演の「宮本武蔵」5部作だ。今作も二刀流に開眼するのが柳生石舟斎の屋敷での立ち回りだったりと影響を見せつつも原作では省略される姫路城での3年間の幽閉期間を二刀流を使うためのトレーニング期間として描いていたり、佐々木小次郎が年上で武蔵とのファーストコンタクトが関ヶ原の合戦だったり独自色も打ち出してる。もっとも内田吐夢版を意識しつつ違いを強調したのは一乗寺下り松における吉岡一門との決闘だろう。

東映のリアリティのない大人数でのチャンチャンバラバラな感じを排すため、それを率先してやってきた中村錦之介に内田監督は原作通り鉄砲や弓矢など飛び道具までそろえた七十人以上の集団と戦うためにどうしたらリアリティのある立ち回りができるのかを追求した。それは名目の頭領である12歳の吉岡源次郎を殺してただ逃げるというもので、それでも後ろから追ってくる吉岡の門弟たちを斬りながら逃げ、足場の悪い土に足をとられながら必死に逃げるという壮絶の見せ場を作った。これがあまりに伝説になり映像作品としてこれを超える物はできないという感じになっていた。

これを覆そうしたのが同じ原作を漫画化した井上雄彦の「バガボンド」で漫画ならではの表現で吉岡一門七十数名全員武蔵が斬ってしまった。ハードルが上がりに上がりこれをさらに上回る描写は特に実写ではできないだろうと思われた。今回の武蔵ではこれを実写でやるというのが目標としてあったのではないかと思う。

録画しなかったので斬った人数はカウントできないがまず吉岡源次郎という子供を直接斬るシーンがあり、そこから怒涛の73人斬りが始まる。「オールドボーイ」の横スクロールのワンカット決闘シーンを彷彿とさせる長回しあり、これまた「ザ・レイド」を彷彿させる複数人との同時進行の斬り合い、「薄桜記」の地べた転がりながら足斬り、座頭市あり、なんでもありの本人いわくシーンごとに10分以上は刀を振り回していたという撮影がうなずける想像を絶する斬り合いが展開した。斬っちゃったよ全員。

これを評価しないでどうするんだと思うんだけど視聴率は悪いだろうなという予感はあった。面白い番組は他にもあり、時代劇離れ、キムタク離れが叫ばれる昨今である。おまけに時代劇通にもキムタクが武蔵ぃ?みたいな感じもあろう。正直視聴率前編14%、後編12%というのは意外と良いなという印象だった。今の時代に単発の時代劇で20%越え狙うこと自体かなり無茶な話ではないだろうか。予算がかかったのか本編よりもCMの方があった様な気がしたしね。前編で懲りた人は録画でCM飛ばしながら観る方がスマートだったと思う。

でも、週明けてからのニュースではこんな感じ。

宮本武蔵」も微妙な数字 “元視聴率男”キムタクの脱皮策
http://gendai.net/articles/view/geino/148800

【週刊テレビ時評】どうした? “平成の視聴率男”キムタク テレ朝開局55周年記念ドラマ「宮本武蔵」も不振
http://npn.co.jp/article/detail/32170905/

本編観て書いてる人はいないんだろうけど、こういうこと書く人たちは逆に視聴率なんてどうでもいいんじゃないかと思う。田村正和がスターだ?お前去年の田村正和主演の「拝領妻始末」観たのかよ。ヘロヘロで立つのもおぼつかない田村正和松平健が勝負して暴れん坊将軍が負けるんだぜ。昔の時代劇はさ、主人公が勝つとわかっていても本当に勝つか勝負してみなければわからない試合性があったんですよ。これを観たとき本当に民放で作る時代劇は終わってるんだなと絶望的な気持ちになったよ。若山富三郎先生とか近衛十四郎先生しか扱えないような長い刀をどういう原理か使いこなしてる沢村一樹とキムタクの巌流島の決闘は結末が分かりきっていてもドキドキさせられたよ。

キムタクはこれに懲りずにどんどんジャンルものに出演してもらいたい。「ジョーカーゲーム」を撮った「サイタマノラッパー」の入江監督が亀梨君の身のこなしを絶賛してたけど、ジャニーズの人たちは見た目のカッコ良さも魅力だけど基本的に運動神経がいい人が多いと思うのでこっち方面に来てほしいね。